大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)815号 判決 1983年1月18日

控訴人 西山美代子

右訴訟代理人弁護士 河村公夫

被控訴人 松本光

右訴訟代理人弁護士 田辺善彦

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出援用及び書証の認否は、《証拠関係省略》と述べた外、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

理由

一  本件についての当裁判所の認定した事実は、次のとおり付加訂正するほか原判決の理由の一に記載するところ(原判決六枚目表一行目から同八枚目裏九行目まで)と同じであるからこれを引用する。

1  原判決六枚目表七行目に「同芝村慶子の証言、」の次に「当審証人芝村邦子の証言、」を加え、同七行目、八行目に「原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く。)」とあるのを、「原審及び当審における被控訴人本人の尋問の結果(但しいずれも後記採用しない部分を除く。)」と改める。

2  原判決七枚目裏六行目から同八枚目表七行目までを削除し、これに代えて次のとおり加える。

「5 被控訴人は昭和五四年一月頃、邦子の義姉の芝村慶子から多くの借金をかかえ込んで困惑している邦子のことで相談を受けた。被控訴人は、金融業たる有限会社南紀商事に勤めるものであるが、以前から知人の芝村慶子の頼みをいれ、昭和五四年五月二一日に邦子から、同人の控訴人に対する金二五三八万円の債権の譲渡を受けた。そして譲渡人たる芝村邦子から債務者たる控訴人に昭和五四年五月二三日到達の内容証明郵便により右債権を被控訴人に譲渡した旨通知するとともに、被控訴人は昭和五四年五月三〇日に控訴人に到達した内容証明郵便により右譲受けた金二五三八万円の貸金を右内容証明郵便到達の翌日から二週間以内に支払うべき旨を催告したが、その支払いがなかったので、同年六月一五日にその支払いを求めて原裁判所に訴状を提出するにいたった。」

3  原判決八枚目裏六行目から九行目までを削除し、これにかえて次のとおり加える。

「《証拠省略》も右認定を覆えすに足りず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

従って邦子は控訴人に対しその主張の通りの貸金債権を有していたと認められる。」

二  そこで控訴人の訴訟信託の抗弁について案ずるに被控訴人は邦子の債務の整理に当り同女の債権者らに合計金二八〇〇万円位の金員を全額邦子に代って立替え支払ったものと主張し、《証拠省略》も右主張に沿うものである。右によれば、被控訴人は慶子が喫茶店を経営していた頃に時々行ったことがあり、被控訴人の病気入院中に慶子が見舞に来てくれたことがあるという一方、被控訴人は金融業の有限会社南紀商事に貸付係長として勤務し、月二〇万ないし二五万円程度の収入を得ている外、右会社勤務とは別に不動産業にも従事することがあるというのであるが、右の程度の付合いに過ぎない慶子からの頼みをいれて右の程度の収入を得ているに過ぎない被控訴人が被控訴人主張の如き金二八〇〇万円もの大金を出捐して邦子の債権者らに対する返済を全部済ませたものとは容易に認め難く、《証拠省略》によっても右被控訴人の主張を認めるに足りず《証拠省略》は容易に措信し難い。のみならず《証拠省略》によれば、被控訴人は貸金業に従事しているもので裁判所に当事者として出頭した経験もあることが認められる外、前記一に認定の事実によって認められる被控訴人が邦子から債権の譲渡を受けた経緯、被控訴人が邦子と単なる知合いの域を出ない程度の付合いであったこと、就中、被控訴人が昭和五四年五月二一日に邦子から債権の譲渡を受けた後、控訴人に対し債権の支払いを催告し、昭和五四年五月三〇日に控訴人に到達の内容証明郵便により昭和五四年六月一三日(右内容証明郵便到達の翌日から二週間)までに支払うよう求め、支払いがないまま同月一三日を経過するや、翌々日の同月一五日に訴状を提出している事実によれば、被控訴人は、邦子が控訴人に対する債権の取立が容易でないことに困惑している事情を慶子から聞き、右債権の譲渡を受けたうえ被控訴人の名義で訴訟を提起することを決意し、邦子においても被控訴人への債権譲渡は被控訴人に訴訟行為をさせることを主たる目的としてなされたものと推認するに足りるものということができる。

したがって、邦子から被控訴人への本件債権譲渡行為は信託法一一条の規定によって無効というべきであり、被控訴人から控訴人に対する本件貸金請求は失当として排斥を免れない。

三  そこで被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるからこれを取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例